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ある日曜日のこと
 
 暖かくて柔らかい太陽の日差し。
 
 どこまでも広がる、雲一つ無い青空。
 
 心地良く駆け抜ける海風。
 
 穏やかな空気。
 
 
 今日は、いい日になりそうだ。
 
 
「早く着きすぎたかな」
 
 公園にある時計に目をやると、時刻は十時三十分。
 
 彼女との待ち合わせの時間は十一時。
 
 やはり、早く着きすぎてしまったようだ。
 
「早く、来ないかな……」
 
 待ち合わせの場所、海鳴公園に彼女の姿は無く、あるのはさえずる小鳥達の姿。
 
「はぁ……」
 
 
 仕事も学校も無い日曜日の朝。
 
 彼女との約束時間はお昼前。
 
 仕事と学校で疲れた体を休ませようと早く寝床に入ったのがいけなかったのか。
 
 結局今日のことを考えていて寝るのは遅くなってしまったが。
 
 今日はどうにも早く目が覚めてしまった。
 
 
「今日の私は……、変じゃない、よね」
 
 
 自分の身なりを入念に確認。
 
 ――……よし。
 
 大丈夫。
 
 変なところは、無い。はず。
 
 
「ふぅ……」
 
 
 最近では、仕事が忙しすぎて一緒にいること自体が少なくなってしまった。
 
 なのでその穴を埋めるために今日、久しぶりに会う約束をしたのだった。
 
 お昼を一緒に食べようね、と。
 
 待ち合わせ時間が十一時というのも実はそれのせい。
 
 
「まだかな……まだかな?」
 
 
 どうにも落ち着かない。
 
 彼女を待っているだけなのに。
 
 自分が早く着きすぎたのがいけないのだが。
 
 彼女に会いたいという気持ちが強いのか、妙にそわそわする。
 
 
 時計に目をやると、
「十時三十五分……」
 
 五分しか経っていなかった。
 
「はぁ……」
 
 思わず溜め息がもれる。
 
 がっくりと、肩を落とした、その時。
 
 
「えぃ!」
 
 視界が暗くなった。
 
「??!」
 
 顔を手で隠されたようだ。
 
「だ〜れだ?」
 
 聞き覚えのある声。
 
 聞きたかった声。
 
 あぁ。
 
 やっと、この声を聞けた。
 
「な、なのは?」
 
 冷静に答えようとして、なぜか声が上ずってしまった。
 
「あったり〜!」
 
 間違えようの無いその声の持ち主、なのはは答えを聞くとパッと手を離した。
 
 視界が開ける。
 
 後ろを見ると、
「さっすがフェイトちゃんだね〜」
 
「なのは〜」
 
 もう! と私が困ったような表情を見せると、えへへ〜と微笑んで、そして優しい顔をした。
 
「久しぶりだね。フェイトちゃん。元気そうで良かったよ」
 
 ニコニコしながら、私の名前を呼んだ。
 
「うん……なのはも元気そうだね。良かった」
 
 さっきのそわそわは何処かに消え去っていた。
 
 今は、なのはが目の前にいて、単純に嬉しい気持ちでいっぱいだった。
 
「久しぶりにフェイトちゃんに会えて、とっても嬉しいよ!」
 
「わ、私もだよ? なのは――」
 
 意地悪っぽく、鼻を押された。
 
「うんうん。えへへ〜。それじゃあ、行こうよ!」
 
 なのはは私の手をひいて走り出した。
 
「な、なのは?!」
 
「時間がもったいないよ〜? フェイトちゃん!」
 
「もう、……しょうがないなぁ」
 
 私はそう言葉にだして、内心ではとても喜んでいた。
 
 
 振り返るなのはの曇りの無い笑顔を見て、もう一度思った。
 
 やっぱり、今日はいい日になりそうだ。
| 神八 | 03:42 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
今も過去も未来も


「なのは〜」
 
 フェイトが、御手洗いに行くと言って部屋を出て行ったなのはを見届けてから、いつまで経っても戻ってこない彼女を心配し始めたのは、部屋を出て行った時刻から数えて三十分過ぎた後だった。
 
 今日は大晦日。彼女が部屋を出て行った時刻は午後十一時。つまり、残り僅か三十分足らずで年が変わるという間際。
 
 なのはとフェイトは、彼女たち以外誰もいないハラオウン邸のフェイトの部屋で二人、こたつで丸くなっていた。
 
 同室に自分以外に誰もいないということから生まれた寂しさが、フェイトの心中をより不安にする。
 
 それはなのはを心配することの裏隠しでもあり「まさか、お腹が痛くなってでてこれないのかな? だからあれほどお菓子の食べすぎはダメだよっていったのに」と、心配と愚痴を口にすることによってそれを上手くごまかす。
 
「…………独りは、寂しいよ…………」
 
 たまらず呟いた独り言が、部屋の空気に溶けて消える。
 
 
 何故ハラオウン家に人がいないのか。それは至って簡単な一つの言葉で表すことが出来る。
 
 仕事。
 
 その二文字の文字が全てを意味する。
 
 ハラオウン家の主リンディとその息子クロノ、そして旧知の仲でもあるエイミィ。三者は同時に、緊急の仕事を受け持ってしまった。三人とも、そういう役職に就いた時に決められた運命なのだとして受け入れている。勿論フェイトも、同じ職場で働いているのでその気持ちを理解できるために、異論は全く無い――といえば嘘になる。
 
 本当は、一緒に過ごしたかったというのが本音だ。
 
 
「ごめんなフェイトぉ。あたしもちょっと野暮用があってさ……」
 
 何度も何度もフェイトの頬に謝罪の意味を込めて頬ずりをする、使い魔のアルフ。
 
「本当にごめんなさいね…………年末年始ぐらいは一緒に過ごせると思っていたのに」
 
 申し訳なさそうに謝罪しながら、お風呂から上がったばかりで濡れているフェイトの髪を乾かしながら梳かすリンディ。
 
「運が悪いよ全く…………すまない、フェイト」
 
 同様に、前者よりも軽い感じではあるが、謝罪の言葉を口にするフェイトの義兄クロノ。
 
「気にしないでアルフ、母さん、クロノ。私は一人でも大丈夫だよ」
 
 自分を気遣う二人に、本心を隠すように気遣いの言葉をかけるフェイト。仕事なのだから、仕方が無いのだ。自分も同じ仕事をしているが故にわかる、彼らの任された任務の重要さ。我が侭を言ってどうにかなるようなモノではない。そういうことはすっぱり諦めたほうが、お互いの為になる――と、自分に言い聞かせてみる。
 
「本当かな〜? お姉さんはフェイトちゃん、大丈夫そうにみえないよ〜?」
 
 ソファに座るリンディの膝の上にフェイトは座っている。仕事を放棄したいという現実逃避から、そのフェイトの胸と腹部の中間部分に頭を沈めながら、フェイトの姉貴分でもあるエイミィは一言、呟く。
 
 その言葉はそのままの意味で、フェイトの表情から察したものだ。
 
「エイミィ、いつまでも私を子供扱いしないでほしいな」
 
 自分の腹部で優しい匂いのする、姉貴分の女性の柔らかい髪を撫でながら、隠し事の出来ない家族に対して、あえて反抗してみることにした。特に意味は無い。直接意味は無いが、間接的に意味があった。その受け答えに、若干の幸せを感じていたから。過去には無かった、やり取りの成立という、幸福に。
 
 
「いや、子供だよ。立派に小学三年生だよ」
 
 思わず突っ込みを入れるクロノ。
 
「クロノ君。そういう意味じゃないのだよ。わかってないねぇ。子供心って奴をさ」
 
 それに対し、冗談交じりに意見してみるエイミィ。
 
「その前にクロノも子供だよ。私と身長が変わらないもの」
 
 ダメ押しをするフェイト。
 
「そうだよ。せめて私より大きくなってからそういう事をいいな!」
 
 暴力的過ぎる追い討ちの一言を言い放つアルフ。
 
「あらあら」
 
 それらを見守る、彼ら(義)兄妹の母、リンディ。
 
 
 いつまでもこんな時間が続けばいいのにと思っていた。楽しい時間が、一人じゃない時間が、永遠に――。
 
 それは、昨日の夜の話。
 
 
 今、フェイトは一人だった。
 
 家族がいない。なのはもいない。誰も、いない。
 
 そんな恐怖が、四方から彼女を襲う。独りでいる寂しさを誰よりも知っているフェイトに、恐怖という闇が、襲う。
 
「独りは…………嫌だよぅ」
 
 気付けば、俯いて、腕の中に顔を埋めて、泣いていた。寂しいから。不安だから。
 
 
 恐怖のどん底に突き落とされたかのような思いを巡らせていると、ドアが開らき軋む音が響いた。
 
「フェイトちゃん。お待たせ」
 
 現れたのはなのはだった。当然といえば当然。だって、この家には今、なのはとフェイトしかいないのだから。
 
「な、のは、なのは――なのはぁ……」
 
 その姿を視野に納め、連呼する言葉と同時に、フェイトの瞳からは涙が溢れ出ていた。
 
「ど、どうしたの? フェイトちゃん?! どこか痛いの?」
 
「怖い……怖いよ……一人は…………怖いよぅ」
 
 そのただならぬ様子に驚き、近寄るなのはに抱きつくようにしてしがみつくフェイト。
 
「フェイトちゃん……」
 
 
 泣きじゃくるフェイトを胸に、なのははそっと抱き締める。抱き締めて、呟く。
 
「大丈夫だよフェイトちゃん。私はここにいる。フェイトちゃんの傍にいるよ。これからも――ずっと。何が起きても、ずっと」
 
 暖かくて優しい言葉。心強い言葉。
 
「……一人は……駄目だよ……」
 
「一人じゃ人は生きていけない。だって人は弱いから。……だから。私はいつまでもフェイトちゃんの傍にいるよ、いつまでも、いつまでも――」
 
 恐怖を取り払うかのような言葉。魔法の、言葉。
 
「お友達になったあの日から、今も、そして未来でも、私はずっとフェイトちゃんと一緒だよ。だから、泣かないでね。フェイトちゃん――」
 
 不安を吹き飛ばす魔法の言葉にかけられて、そのままフェイトはなのはの腕の中で眠りにおちるのだった。
 
「これからも、ずっとだよ。フェイトちゃん」
 
 除夜の鐘がどこからか響いてくる最中、腕の中で眠る可愛い少女に口付けすると、自身もその場で眠りにおちることにした。
 
 除夜の鐘がなり終わる頃に、二人は同じ夢を見始める。誰もが笑っている、そんな、幸せな夢を――。
 
 
 今も過去も未来も 完
 

| 神八 | 05:41 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
フェイトさんの失敗

「はい、お口開けてー。あーん」
 
「あー……ん」
 
「美味しい? お粥なんだけど」
 
「うん、美味しいよ。ありがとう、なのは――――へ、へ、へっくち! ……ぅー」
 
 フェイト・テスタロッサ、九歳。真冬の海にダイブ、ガクガク震えながら現在自宅のベッドにて養生中。風邪の症状が出始めているらしい。
 
 高町なのは、同じく九歳。真冬の海にダイブしたフェイトを救助、そして現在介護中。
 
「フェイトちゃん、ドジっこさんだったんだね。びっくりしちゃったよ」
  
「あ、あんな所にバナナがあるなんて誰も思わないよ――――っくしゅん!」
 
「あはは、そうだねー。はい、あーん」
 
「あー……ん」
 
 
 事の真相。半日前に遡る。
 
 運動神経抜群と言う事で一目も二目も置かれているフェイトの彼女らしくない失敗。
 
 それは正午の事。
 
 海鳴臨海公園を二人で散歩中、フェイトはなのはの前に先行し、海を前に振り返った。その時足元には黄色い物体が。気付く間も無く踏み、足を滑らせ、振り返り時の勢いが災いしたのか、そのまま低い柵を越え海にドボン。
 
 以上、半日前の出来事、回想終わり。
 
  
 なのはは顔を近づけ、フェイトの額に額を当てると、目を瞑って呟いた。
 
「んー。少し熱っぽいね。フェイトちゃん。寒い?」
 
「う、うん、少し」
 
 目と鼻の先にいるなのはを見て赤面するフェイトは、熱いのは多分、熱だけのせいじゃないよ――と心中で返答しつつ、実際の言葉ではそう答えた。寒いのもまた真実だったから。
 
「風邪引いちゃったみたいだね……ごめんね、フェイトちゃん」
 
 返答を聞き、ゆっくり離れるなのはは謝罪の言葉を口から漏らす。その思いもよらぬ謝罪にフェイトは心底驚いたような表情を浮かべ慌ててそれに対する言葉を探し出し、同じく謝罪の言葉を口にしようと一声。
 
「どうしてなのはが謝るの? 悪いのは勝手に滑って落ちた私がいけないんだ。なのはのせいじゃないよ。むしろ私のほうが……、あ、謝らなく、ちゃ――――は、は……はっくしゅ! 謝らなくちゃいけな――――へくちっ! …………ごめん」
 
 謝罪の言葉は最後まで言えず、どうにもこうにも格好がつかない。くしゃみというモノは空気を読んでくれないらしい。が、それが面白おかしかったのかなのはは笑みを浮かべている。
 
「うん。フェイトちゃんが言いたいことはよーくわかってるつもりだよ。でも、フェイトちゃんは今、風邪をひいてる。それは変える事のできない現実で、曲げようのない真実なの。私が早く助けてあげればフェイトちゃんは風邪なんかひかなかったかもしれない。だから私は謝るの、ごめんね。フェイトちゃん」
 
 私の身体を抱き締めてくれるなのはの身体が温かい。なのはの優しさが温かい。私を心配してくれるなのはの心が、温かい。そう思うと、  
「ぁ……ぅ……そう、言われると…………」
 
 フェイトは、どうにもこうにも言葉が出てこない。なんて答えればいいのか。言葉が見つからない。いや、出掛かってはいる。けど、それが引き出せない。
 
 
「寝よう、フェイトちゃん」
 
「ぇ?」
 
「風邪は寝ないと治らないの」
 
 言い出せないでいるフェイトを無理矢理ベッドに寝かせると、その横になのはが添うようにして寝転ぶ。
 
「な、なのはッ――か、風邪がうつっちゃうよ!」
 
「大丈夫――フェイトちゃんのなら、大丈夫」
 
 風邪がうつって大丈夫なわけがないのに。と、心配するフェイトをよそに、抱きつくなのははまるで躊躇いが無い。
 
「身体を寄り添いあえば温かいの、ぽっかぽかなの」
 
「ひゃっ――なのは――くすぐったい――んー?!」
 
 ぴったりと密着するなのは。それこそ唇と唇が触れ合うぐらいに。
 
 重なり合う唇はいやに熱をおびていて、しかし温かい。
 
「なの、は?」
 
 突如として唇を奪ったなのはに驚きの視線を浴びせるフェイト。
 
「にゃはは。魔法のおまじないだよっ。早く治るようにってね」
 
 あぁ――なんだ。こんなに簡単な言葉だったのか――と、出掛かっていた言葉が、なのはの優しさに触れてようやく理解できたフェイトはただ一言、なのはの胸にうずくまるようにしながら一声。
 
「……あり、がとう」
 
「うんッ」
 
 その言葉を聞いたなのはは、より強く、優しく、フェイトを抱き締めて、眠りに尽いた。

| 神八 | 15:21 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
名前を呼んで

 
「なのは」
「フェイトちゃん」
 
 日中から部屋の中に閉じこもっている子供が二人。
 
「なのはっ」
「フェイトちゃんっ」
 
 部屋の真ん中で互いに見つめあい、
 
「なのは!」
「フェイトちゃん!」
 
 何度も名前を呼び合う、
 
「なのはなのは!」
「フェイトちゃんフェイトちゃん!」
 
 高町なのはとフェイト・テスタロッサ。
 
「なのはなのはなのはなのは!」 
「フェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイちょたん! …………あ、噛んじゃった」
 
 二人は互いの名前を呼び合う遊びをしていた。
 
「また私の勝ちだね。顔、近づけて」
「うん……」
 
 先者は相手の名前を様々な呼び方で言い、後者はその真似をするという、単純な遊び。
 
「いくよ」
「うん…………痛くしないでね」
 
 遊び方としては、呼び合う名前を決める。二人なら自分じゃない相手の名を、三人なら呼ばれる人が被らないように、四人以上なら三人の時と同じやり方で。
 
「それは……う〜ん……どうしようかな?」
「いじわるだよフェイトちゃん」
 
 名を呼ぶ回数は先者が決める。一回から始め、徐々に呼ぶ回数を増やしていく。
 
「なのははわがままだね」
「うぅ……じゃ、じゃあいいよ。強くたっていいよ!」
 
 一声目から極端に多く数を増やしてもいいが、それはリスクが高すぎるのでお勧めしない。
 
「ふふ……それじゃあ、今度こそ、いくよ」
「…………いいよ」
 
 お勧めしないと言うのは、慣れないうちに数を増やすと、舌を噛んでしまったり、舌足らずになってしまうからだ。徐々に増やしていく、これがルールの基本だ。
 
「…………」
「…………ッ」
 
 そしてもう一つ、重要なルールがある。
 
「…………」
「…………ひゃぅ!」
 
 このゲームをやるに当たって、絶対に守らなければならないもの。それは、
 
「…………」
「…………っ〜」
 
 敗者は、弱肉強食世界の法に乗っ取って、勝者から罰を受けることになる。つまりは罰ゲーム。
 
「…………く」
「・・・………っん!」
 
 罰ゲームはゲームを始める前に決める。内容は何でもいい。
 
 自分たちで好きに決めて構わない。
 
「く……ぅ……」
「ふぁ……ぁ……」
 
 今回の罰ゲームは、
 
「ぷっ……ぷふっ……あは、あはは!」
「うにゅ〜…………」
 
 負けた人のほっぺたをグニグニしたり引っ張ったりすること。
 
「な、なのはの顔……変……っ…………くぅっ、おかしくて涙が出て来たよ……」
「ふぇ、フェイトちゃんが引っ張ってるからだよ! 私の顔、変じゃないもん! も、もう一回! もう一回だよフェイトちゃん!」
 
 引っ張られて少しだけひりひりする頬を両手でさすりながら、お腹を抱えて俯き笑う勝者に向かって再戦の申し立て。
 
「う……うん……っ……、受けて立つよ」
「今度は私からだよっ!」
 
 実はコレでかれこれ四回目。罰ゲームを受ける分には問題ない、けれども勝ち星を上げる事無く終わるというのはなのはにとっていただけない話であって。
 連敗中のなのはとしてはそろそろ勝ちたいところ。
 連勝中のフェイトは心なしか余裕も出てきたのだろう、了承の意味でコクリと頷く。
 
 
「それじゃあ、いくよ! フェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃん!」
「い、いきなり……なのはなのはなのはなのは!」
 
 最初から全力で勝負に出たなのは。
 掟破りなことを平然とやってのけれるのは、後が無いと踏んだなのはの予想からだ。
 窮地に追いやられているのだ。それぐらいやらないと、この強敵は倒せない。
 
「や、やるぅフェイトちゃん。でも、まだまだ……フェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃん、フェイトちゃん!」
「むむむ……なのはなのはなのはなのは、なのは!」
「フェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃん、フェイトちゃんフェイトちゃん、フェイトちゃん!」
「ちょ……ええと……なのはなのはなのはなのは、なのはなのは、なのは!」
 
 凄まじい名前の呼び合い。この時点で両者は(舌が)軽くオーバーヒート寸前。指で数えられる回数も限界に近づいてきた。
 
「むぅ〜……フェイトちゃん……負ける気ないでしょ」
「あ、当たり前だよ。常に全力全開っていったのなのはでしょ?」
「そ〜だけど〜。もう、フェイトちゃんは負けず嫌いだなぁ」
「う…………なのはもね」
 
 このやり取りは数分前にも行われた。同じ形式で。
 
 一息つくための会話にも思えるが、嵐の前の何とやら。この後、凄まじい言葉の嵐が吹き荒れる。
 
「今度こそ…………フェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃんフェイトちゃん!」
 
 ついに二桁の大台に乗った。なのはは息を切らしフェイトを見つめる。その数に驚いているのを見て、確信する。勝った――と。
 
 
「だ、大分と成長したんだね、なのは。十一回なんて初めてだよ。でも、私も負けない! すー…………なのはなのはなのはなのはなのはなのはなのはなのはなのはなのはなのは!」 
「…………」
「ど、どう? 言えてたよね?」 
「完璧だったよ……非の打ち所も無いの」
 
 まさかココまでやるとは、なのははフェイトの計り知れない実力に驚愕し、そしてとある作戦を思いついた。
 
「う〜ん。悔しいにゃあ。こにょままだと負けちゃうのにゃ」
「にゃ、にゃ? なのは、どうしたの?」
「発音の練習だにゃ。フェイトにゃんも一緒に言うのにゃ」
「れ、練習? わ、わかったよ……にゃ、にゃあ」
 
(引っかかったの)
 
 ボソッと一言、呟く。
 
「にゃ、にゃにか言った? にゃにょは」
「にゃんでもにゃいよフェイトにゃん。にゃんにゃん♪」
「にゃ、にゃんにゃん、にゃんにゃん♪」
  
 なのはの策略とは知らずに、フェイトは真似をする。
 
「にゃんにゃにゃん♪」
「にゃ、にゃんにゃにゃん♪」
 
「にゃにゃにゃんにゃん」
「にゃにゃにゃんにゃん♪」
 
「にゃんにゃんにゃにょは」
「にゃんにゃんにゃにょは♪ にゃんにゃんにゃにゃは♪ にゃんにゃんにゃ――」
「ノリノリになってきたところを申し訳ないけど勝負なの。フェイトちゃん♪」
「え?! な、な、にゃにょは! ……あ」
「なのはの勝ち〜♪」
 
 見事になのはの策略にはまってしまったフェイト。それに気付いたのはまさに今。とんだ失敗をしてしまったものだ。たまらず、泣き顔になる。
 
「ず、ずるいよなのは!」
「なんのことだかわからないな〜。勝ちは勝ちなの〜」
 
 とぼけるなのははババンと床を叩き、
 
「それじゃあ、罰ゲーム、行ってみようか、フェイトちゃん」
「ぅ〜……わかったよぅ」
 
 罰ゲームを強制発動させた。
 
 敗因は自分にもある。まんまとなのはの術中にはまってしまったのだから仕方が無い。おとなしく罰を受けるとしよう、と割り切ったフェイトはなのはに顔を近づける。
 
 
「何をやってるのフェイトちゃん、目を瞑って」
「え? 何で?」
「いいから。勝者に逆らう権利はないの。はーやーくー」
「う、うん?」
 
 意味が良く分からないが、どの道、敗者は頬を引っ張られる運命。抵抗しても仕様が無いので、フェイトは言われたとおりに目を瞑る。
 
「うふふ」
 
 フェイトは、まぶたの向こうで不適な笑みを浮かべるなのはの姿を想像した。何か変なことでも考えているんじゃないかと不安を覚えていると、すっと頬に手を当てられる。いよいよ罰ゲーム開始か――瞑っている目をさらに、ぎゅっと瞑る。
 
 何も見えない何も見えない。
 
 何も見えなければ何も怖くない。怖くない、怖くない。
 
 暗示をかけ、覚悟を決めた。
 
 
「それじゃぁ、いただきま〜す」
「い……いただきます? なのは、何を言ってぅ――――むぅ?」
 
 突然柔らかいもので口をふさがれた。柔らかいそれは、温かい。
 
 口を塞がれたまま押し倒され、驚きのあまり思わず目を見開いた。見開いた視界の先には、なのは。
 
 口を塞ぐものは、なのはの唇。
 
「んふふ〜、ごっちそうさま〜」
 
 満足げに起き上がるなのは。それはもう、遣り遂げたといわんばかりに満面の笑みを浮かべている。
 
「にゃ、にゃのは……今のは……」
 
 唐突なキスに驚くフェイトは思わず唇に指を当てる。まだ、温もりが残っていた。
 
「罰ゲーム、罰ゲームだよフェイトちゃん」 
「ず、ずるいよ、、と、突然ちゅ、ちゅ〜するなんて……」
 
 本当はルールを変えるなんて〜、と言いたかったフェイトだが、言った後で言わなくて良かったと思うようになる。
 
「ふっふっふ〜ん。フェイトちゃ〜ん。ずるいって、フェイトちゃんから私にちゅ〜したいの? もう一回勝負して勝ったら、させてあげてもいいよ――」
「やるっ!」 
「ふぇ? あ、う、うん。わかったよ」
 
 
 即答するフェイトに気圧されたまま勝負を再開したなのはは、フェイトの異常なまでの気迫に押され、開始一回目で舌足らず、というよりは迫力負けし、あっさり敗北。
 
 勝利を手にし、目をキラキラさせるフェイト。この後起きることを想像して、なのはは堪らず身を引いた――が、後ろは壁。逃げ場がない。
 
 
「それじゃぁ、私も、いただきま〜す!」
「むぅぅ〜〜――――!!?」
 
 壁とフェイトに挟まれ、脱出不可能。あっけなく、唇を奪われた。
 
 
 その後数回勝負をしなおしたが、全てフェイトの勝利に終わり、なのはは唇どころか色々な所まで口づけられることとなったのは余談である。
 
 
 
 名前を呼んで 完
 
 
 〜あとがきみたいな〜
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| 神八 | 01:12 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
Not Only

 
 私、フェイト・Tハラオウンは現在自宅にて朝ごはんを食べています。
 
 今日はお仕事も学校もお休み。
 
 久しぶりにのんびりとした一日が送れそう。
 
 でも休みの日って、考えて行動しないとあっという間に一日が終わっちゃう。
 
 どうしようかな。
 
 一日中寝ているのは流石にどうかと思うし、かといって外に出ると逆に疲れちゃうかもしれない。
 
 母さんもお兄ちゃんもいないし、エイミィだっていない。アルフは……どこかに出かけちゃってる。
 
 一人で家にいるのは、ちょっとだけ寂しいな。
 
 ――そうだ。誰かの家に遊びに行こう。
 
 ええと……アリサ……は、そうだ。外出するって行ってた。駄目だね。
 
 すずかも今日は遊べないって言ってたっけ。
 
 はやてたちは、お仕事だよね。
 
 ……なのはは、どうなんだろう。
 
 確か、なのはもお仕事はお休みだって言っていた気がする。
 
 電話して聞いてみようかな……。でも、何か予定が入っていたら迷惑かけちゃうし……。
 
 ポケットから携帯を取り出して、数回ボタンを押すと……携帯電話に表示されるなのはのアドレスと電話番号。
 
 あと一回ボタンを押せば、電話が繋がってなのはの声が聞けるけど……うん。止めておこう。
 
 毎日仕事場で顔を合わせているんだ。休みの日まで私の顔を見たら、きっと気が滅入っちゃうよね。
 
 私は見ていても大丈夫だけど、むしろずっと見つめていたいけど――。
 
 
 誰もいない、一人だけのリビングはいやに広くて、無音で、そして孤独で。
 
 普段は大丈夫だよって周囲に振舞っているけど、やっぱり一人は寂しくて。
 
 寂しさを振り払うようにやり始めた宿題はあっという間に終わってしまって。
 
 いつもは分からない所があって、それをアリサたちに聞いたりして、そのあとに一緒に遊んだりして。
 
 でも今日は分からない所はなくて、アリサたちはここにいなくて、遊ぶことは出来なくて。
 
「…………」
 
 そう考えたら余計に寂しくなってしまって。
 
 
 どうしようもないこのやり場の無い気持ちはどうすれば消えるんだろうか。
 
 考えても何も浮かばない。
 
 孤独感だけが私を包み込む。
 
 寂しいのは嫌だ。一人ぼっちなのは嫌だ。
 
 でもそれはどうしようもないことで、振り切る事は出来なくて。
 
 ベッドの上に転がってみても、全てを忘れさせてくれる、普段なら直ぐにやってくる睡魔は、今日に限って襲ってこなくて。
 
 一人は虚しくて、寂しくて、そんな感情のせいで溢れてきそうな何かを抑えるために、枕に顔を押し当てていると、
 
 ピンポーン♪
 
 家中に誰かが家に来たことを知らせるチャイムが鳴り響いた。
 
 
「……誰だろう? 郵便屋さんかな?」
 
 こんな時間に家を訪れる人間と言えば、宅配便屋さんと、郵便屋さんと、それから……ええと、とりあえずそんな人たちだろうな。
  
「は〜い、どちら様ですか〜」
 
 ガチャリとドアを開ける。
 
 そこにいたのは、
「にゃはは〜。おっはよ〜、フェイトちゃん♪」
 
 翠屋特製御用達紙袋を手に持ち、ニパーっと微笑む、なのはだった。
 
「な、なのは? 一体どうしたの?」
 
 私は驚いてしまって、そんな言葉しか出てこなかった。
 
「フェイトちゃんが寂しがってないかな〜って。はいこれ、お土産。お母さん特製のシュークリーム、とっても美味しいんだよ〜」
 
 なんて勘の鋭い子。
 
 まさにその通り。
 
 けど、そうとは言わない。
 
 そんな事、言えないよ。 
 
「あ、ありがとう、なのは」
「えへへ〜。あとで一緒に食べようね〜」
「うん――」
 
 わざわざ私を心配して来てくれたんだ、なのは。
 
 そう思うと、なんだかとっても嬉しいな。
 
 
「あれ、フェイトちゃん? もしかして……泣いてた?」
「え?」
 
 し、しまった。涙を拭うのを忘れていたよ。慌てて拭った時にはもう遅い。
  
 ばれてしまったものはしょうがないので、少しだけ、理由(わけ)を話しておこう。
 
 黙っていると、なのはは尋問してくるんだもん。
 
 
「そ、その……さっきまで、一人ぼっちで……そう思うと、なんだか寂しくて……その……」
 
 何でだろう、喉の奥に何かが詰まっているような、そんな感じのせいで、上手く言葉にして言えない。
 
「ごめん、変なこと言っちゃったね。気にしないで」
 
 伝えるべきことが中途半端になってしまった。どうせ伝えることが出来たとしても、それはなのはには関係ないことだから忘れて――、と、小さな声で伝えて、リビングの方へと体を向けた時、
「変なことじゃないし、関係ないことじゃないよ、フェイトちゃん」
 
 そう言って、なのはは私に抱きついてきた。
 
 驚いて、思わずシュークリームの入った袋を落としそうになってしまった。
 
 急に抱きついてきたことだけが驚いた理由じゃない。
 
 なのはの言葉にも、驚いたんだ。
 
 どう返事をすればいいのかわからずに放心していると、なのはは続けて言葉を繋げる。
 
「誰だって一人ぼっちは嫌、皆思っていること、だから、変なことじゃない」
「寂しいと感じて泣いちゃうのは変じゃない、悪いことでもない」
「皆思っていることが、私も思うことが、関係ないわけないよ。それに」
 
 次第に、締め付ける力が強くなって、私は動けないでいた。
 
 なのはは、一呼吸し、
 
「フェイトちゃんは一人じゃない。ずっと、いつまでも、私が傍にいるから、一緒にいるから、一人じゃない」
 
 そう、呟いた。
 
 それを聞いた私は、心のどこかでホッとしたのかな、その場にへ座り込んじゃった。
 
 さっきまで、休みの日まで顔を合わせるのはなのはの気が滅入るだろうとかなんとか自分で思い込んでいたくせに、いざ――いつまでも一緒――なんて言われて、安心し、嬉しいと思ってしまうなんて、私はなんて自分勝手なんだろう。
 
「め、迷惑じゃ……ない? 私なんかが、ずっと傍にいて、迷惑なんじゃ……」
 
 恐る恐る、聞きたくない言葉が返ってくるかもしれない問いをかける。
 
 言葉だけかもしれない、それが一番怖くて、寂しくて、悔しくて――だからこそ聞いたのかもしれない。
 
「全然そんなことない。フェイトちゃんだからいつまでも一緒で良いって言ったの。私が勝手にそう思っているの。だから、全然迷惑じゃないし、むしろフェイトちゃんが一緒にいてくれるって言うなら、大歓迎だよ」
 
 なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう。
 
 喉の奥が、目頭が、凄く熱いよ。
 
 私は、言葉足らずかもしれないけど、今私が言える最大の感謝の言葉を伝えることにした。
 
「…………ありがとう、なのは」
 
 なのはは、抱きつくのを止めて、ニコッと微笑んで、
 
「うんッ!」
 
 そう返してくれた。
 
 私は一人じゃないんだ、そう思うと、嬉しくて、嬉しくて涙が溢れてくる。
 
 さっきから、私は泣いてばかりだから、コレが最後の涙にしよう。
 
 私は一人じゃない。だから、泣くのはもう止めにしよう。 
 
「フェイトちゃん、シュークリーム、食べよっ?」
「…………うん!」
 
 この笑顔の似合う少女が傍にいてくれる限り、私は泣くのを、止めよう。
 
 そう決意した、とある休日の午前のこと。
 
 
 
 Not Only 完
 
 
 あとがき
 
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| 神八 | 21:01 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
初めてのバレンタイン

 
 今日は二月十四日、彼女と遊ぶ約束をした日。
 
 待ち合わせ時刻は午後四時半。
 
 遊ぶにしては少しだけ遅いと思えるこの時間。
 
 どうせ遊ぶなら、もう少しだけ早い時間から待ち合わせしよう――と、言いかけたけど、止めた。
 
 彼女にも都合がある。
 
 ワガママなんて言ったら迷惑をかけてしまう。
 
 それに、彼女と一緒にいられるんだから、それだけで十分。
 
 それ以上は何も望まない。
 
 
「……また、カップル……」
 
 待ち合わせ場所は鳴海臨海公園。
 
 普段はあまり人気のない場所なのに、今日はやたらと人の姿を見る。
 
 それも、今呟いたように恋人同士ばかり。
 
「あっちも、こっちも、恋人、だらけ」
 
 そう言えば、この公園は鳴海市でも有数のデートスポットの一つだと士郎さんと桃子さんが言っていたような。
 
 今日は休日でもあるし、もしかしたらそれのせいかもしれない。
 
 
 人をじろじろと見るなんてあまり感心できることじゃない。
 
 時間になるまでボーっと目の前に広がる鳴海の海を眺ることにした。
 
 
 どこまでも、水平線の彼方まで続く海。
 
 雲一つ無い、澄み切った空。
 
 傾いてきた日によってオレンジ色に染められるそれらはとても美しく、そして虚しい。
 
 この光景は、一人で見るにはもったいなさ過ぎる。
 
 そう思っていると、後ろから声が聞こえた。
 
 それは私の良く知っている声。
 
「ごめ〜んフェイトちゃん、遅れちゃった」
「遅れたって……五分と過ぎてないよ、なのは」
 
 私の待ち人、高町なのはが私の目の前に現れた。
 
 走ってきたのか、息が乱れている。
 
「ちょっと時間がかかっちゃって、本当にごめんね」
「気にしないで、私も今来たところだから」
 
 五分の遅れで謝罪をする彼女に、三十分も前からここにいたとは言えない。
 
 なるべく気にさせないように嘘をついた。
 
「本当? なら良かった〜、って言いたい所だけど、それは嘘」
「どうして?」 
「フェイトちゃん、目がトロンってしてる。眠くなるぐらい、待ってたんでしょ? 今日は暖かいから」
 
 全く、なのはには敵わないな。
 
 私の気遣いが無駄になってしまった。
 
 なのはに嘘をつかなくて済むんなら、それはそれで良い事だ。
 
「あはは……なのはに嘘は付けないね。うん。そう……だけど、気にしないで。待つのは、好きだから」
「気になるから謝るの。ごめんね、フェイトちゃん」
「いいって。それよりも、時間がかかったって、何してたの? 今日、宿題は無いよね?」
 
 ふとした疑問をぶつけてみると、
「にゃはは」
 と笑い、体の後ろに隠していたのだろう、紙袋を取り出し、
「はいっ、フェイトちゃん!」
 私に手渡した。
  
 これは、一体何?
 
 疑問が私の頭の中を駆け巡る。
 
「なのは……あの、何? これ」
 
 その疑問がそのまま言葉に。
 
「今日はね、バレンタインデーなの」
 
 バレンタイン?
 
 私の中には疑問符だけしか浮かんでこなくて。
 
 そういえば街中でその言葉をやたらと耳にしたが、だからどうしたと、その程度にしか思っていなかった。
 
 なのはは補足するように言葉を繋げる。
 
「女の子がね、好きな相手にチョコレートをあげる日なの」
「ええと」
 
 それはつまり。
 
「私はフェイトちゃんが好きだから」
「…………!」
 
 その一言を聞いた私の心は、動揺したのだろうか、激しく揺れ動く。
 
「えへへ……ちょっと失敗しちゃったけど、絶対に美味しいはずだよ」
 
 時間が掛かった、というのは、もしかして私の為にそのチョコレートを作っていたから?
 
「ご、ごめん」
「……? どうして謝るの?」
 
 嬉しいと思う気持ちの反面、出てきた言葉は謝罪の言葉だった。
 
 
 私の為に時間を割いてまでこれを作ってくれたというのに、 
「なのはは、頑張ってこれを作ってくれたのに」
 
 私は今日がどんな日なのかも知らずにボーっとしていただけで、
「私は何も知らないで…………」
 
 私は一体どのようにして彼女に謝ればいいのだろうか。
「私は、なのはにあげるものが、何もないよ……」
 
 どうしようも無いと分かっている故に、悲しくなる。
 
 紙袋の隙間から見える、リボンに包まれたモノ。
 
 なのはが一生懸命、私の為に作ってくれたモノ。
 
 私は、どうやってなのはに応えればいいのだろう。
 
「フェイトちゃん」
 
 なのはが俯く私に呼びかける。
 
 顔を上げると、なのはは、私の不安を吹き飛ばすかのように、にっこりと微笑んでみせてくれた。
 
「謝る必要なんて全く無いの。知らなかったんだから仕方が無いよ。それにね」
 
 応えられるものが無いのに、謝らなくていい。そう私に語りかける。
 
 無いわけが無いのに……。でも――と、口を半分開き、言葉を発しようとしたところを、指でチョンと抑えられた。
 
「それにね、私は私がフェイトちゃんの事を好きって思ってるから、フェイトちゃんにそれをプレゼントしたの。だからね、そんなに悲しそうな顔して謝らないろうとしないで、ね? 私が勝手にフェイトちゃんを好きって思ってるだけだから」
「わ、私も――!」
 
 なのはが、なのはは私を好きで、私はなのはの事を好きじゃないみたいな言い方をしたからだろうか。
 
 その言葉を遮るように、なのはの言葉を否定するかのように、大声を上げて、
「なのはのことが、好き――ううん、大好き」
 私はそう呟く。
 
 だから、そう思っているから、なのはに何も渡せないことに、苛立ちが隠せない。悲しみが隠せない。
 
「だから……――何も、あげられなくて、ごめん」
 
 言い切る前に私は泣いていた。なのはを困らせるだけと分かっていながら、泣いていた。
 
 止まらない。なのはの思いを知ったことによる嬉しさからか、それに応える事の出来なかった悔しさからか、涙が溢れて止まらない。
 
「モノをあげるって事だけが、バレンタインの日に出来ることじゃないよ。だから泣かないで、ね?」
 
 泣くしかない私に向かって、なのはそう慰めてくれた。
 
 言われた瞬間は何を言っているのかわからなくて。
 
 それは一体どういう意味なのか、分からなくて。
 
「フェイトちゃん?」
 
 そして、私が導き出した応えは。
 
「なのは、目を、閉じてくれるかな?」
 
 涙を拭って、お願いする。
 
「う、うん? わかったけど、どうして?」
「目を、開けないでね」
「ん……」 
 
 私はモノを贈れないから、何にも無いから、だから、私の気持ちを乗せて、こうすることに決めた。
 
「ふぇ?」
 
 今の私が持っている、ありったけの気持ちを込めて。
 
 私はなのはの唇に口づけをした。
 
「…………」
  
 驚いたんだろう。なのはは目をパチクリさせている。
 
「何も、無いから。だから、私の、ファーストキスを……上げるね。駄目……かな?」
 
 なのはは、ポカンとしている。
 
 やっぱり、こんなのじゃ駄目だよね。
 
 もう一度だけ、謝ろう。
 
「……なのは。ごめん、今のは無――」
「駄目じゃないよ」
 
 聞き間違えたのか、それとも本当にそう聞こえたのか。
 
「全然駄目じゃない。ありがとう、。とっても嬉しいよ、フェイトちゃん」
 
 聞き間違いではない。
 
 と、すると、それは本当に本当?
 
「私のとは比べ物にならないほどのプレゼントだよっ」
 
 そんな事は、決して無い。
 
 私のは、ただのその場つなぎの行為となんら変わらなくて、なのはの贈り物とは比べ物にならなくて。
 
 なのはが喜んでくれればいいと思って。
 
「えへへ〜……ファーストキスかぁ、実は、私もだったんだよ! 初めてがフェイトちゃんで良かった!」
「そう、なの?」
「うんっ!」
 
 なんと言ってあげればいいのか。大事なものを奪ってしまった気がしてならない。
 
 しかし、なのはは喜んでくれている。
 
 ここは、なのはの気持ちになって考えてみよう。
 
 なのはは、何を言われたらもっと嬉しくなるだろうか。
 
 その答えを出すのに数秒とかからず。
 
 私は見つけ出した言葉を、なのはに向かって囁く。
 
「大好きだよ、なのは」
「――ッ……にゃはは、うん。私も大好きだよ、フェイトちゃん♪」
 
 今日一番の笑顔で、なのははそう返してくれた。
 
 
 
 初めてのバレンタイン 完
 
 
 あとがき的な
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| 神八 | 19:55 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
君だから

 
 なのトラの原稿を書いているときに余ったネタで書いた落書き。
 文字数少なめです。何せ落書きなので。
 もしかしたら新刊に載せてしまうかもしれない恐怖(全然終わって無いよ)。
 (´・ω・`)……欝だ。
 続きを読むで本編始まります。
 
 
 君だから 〜なのは×フェイト〜

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| 神八 | 04:48 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
リアル・フェイス


 久方ぶりになのフェイSS更新します。ですがグダグダです。申し訳ありません。
 このSSは、なのトラ新刊の「I need you...」で書いたスマイル・アゲインのフェイトさんVer風の仕上げとなっておりますです。似てるなおい! とか思われた方、ご了承の程をお願いしますです。
 
 続きを読むからどうぞ
 
 
 リアル・フェイス

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| 神八 | 18:00 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
『いつも傍に』 フェイなのSS (※超ド短編)

 
 一週間にSS一本というのはあまりにも少ないだろうという自分の思い込みが炸裂した今日この頃。
 そろそろ書かないとですね、と言うことで「フェイなのSS」更新です。ただしもの凄く短くて文章おかしくてカオスですのでご注意を。
 
 では、続きを読むからどうぞ
 
 
 いつも傍に

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| 神八 | 03:46 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
7万Hit御礼

 
 いつの間にか7万Hitしてました。ありがとうございます!
 そしていつの間にかタマゴルビー様のサイト「タマゴのお部屋」と相互リンクさせてもらってました。本当にありがとうございます! 
 ありがとうございますとしか言いようがないです……。
 7万Hit&相互リンク御礼というわけではないですが、何か記念にSSを書きたいと思います。
 
 続きを読むからどうぞ
 
 なのフェイSS「ありがとう」、始まります。

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| 神八 | 00:15 | comments(1) | trackbacks(0) | pookmark |

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